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筆談小姐4-01.新春事始
2008 / 06 / 01 ( Sun )
4-01

SMSでの口論から決定的な溝ができてしまった俺。それからクリスマスが過ぎ、年が明けても彼女から連絡がくることはなかった。

俺の方からも連絡はとらなかった。問題は金を受け取る姿勢であり、また、不可解なその金額でもある。時間が経てば感情の高ぶりは収まって冷静にはなるものの、文化の違い言葉の問題もある中で、この話をうまく進めて納得できる答えを引き出せる気がしなかったのだ。

そんなこんなで年が開けて仕事始め。

何故か一升瓶が会議室におかれ、年頭挨拶で乾杯をした後は、昼前から自分の席でコップ酒を片手に届いた年賀状の返事などを書いている。国内取引先のほとんどはまだ正月休みだ。正式な始業日よりも一日早く始業するけれども、その日は酒浸りでOKなんていうこの変な風習は一体誰が始めたんだろう。

ほろ良い気分も手伝ってぶつぶつ独り言を言いながら年賀状を整理していると後ろから声をかける人があった。振り返ると本部長のSさんだ。

「どうですか、元気にやってますか最近は」
「お蔭様で頑張ってます。上海の方も順調みたいで」
「仕事じゃない方も順調らしいじゃないの。Mから聞いたよ」

Mというのは俺の上司だ。そういえば、彼女と口説いてる最中に上司Mと一緒に上海出張に行って、俺だけ途中から別行動だったなんてことがあった。S本部長は彼からその話を聞いたのに違いない。あれは確か初夏だった。あれから数ヶ月しか経っていないのに、何ていろんなことがあったんだろう。

「いやぁ、それがそんなに順調でもなくて」

一瞬の感慨の後に短く答える。とてもじゃないが全部話せる状況じゃない。一言で言える話でもないし、ちゃんと話し始めたら一晩くらい呑み明かせそうだ。

「あれ?じゃぁKTVにも行ってないの?」

S本部長は意外そうな顔をした。

「しょうがないな、じゃぁ、近場だけど今晩行きますか」

おぉっ、久しぶりに聞いたよそのフレーズ。
国内で新春早々事始めですか。

俺は新しい挑戦に身震いした。


4-01b



03 : 06 : 32 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
4-02.改造費用
2008 / 06 / 01 ( Sun )
4-02

夕方になり、本部長に連れられて繁華街に。何故か上司Mも一緒だ。どうも最近の流行らしい。
行った店はヘルスだった。ヘルスは本番はないんだけど、本部長もMも嬢を口説いてそれに持ち込んでいるらしい。

「こういう交渉ができてこそ本当の営業マンです」

と、本部長がおごそかに言い放つ。

なるほどこう仕切られたら負けず嫌いの上司Mが食付くわけだ。全然話が違うと思うんだけど、それを言うと逃げたと思われそうな気がする。それ以前に今回は本部長の奢りなので文句は言えない。

でも、この宿題は嬉しくないなぁ。俺営業マンじゃないし。

やがて店に入り、写真を選んで女の子を指定する。このあたりからは皆別行動だ。
しばらく待ってると嬢が出て来た。プロフィールにはほしのあき似と書かれていたが、かなり違う。でも、服を脱ぎ始めるとその豊満な胸が露わになった。ここは確かにほしのあき級かもしれない。だったらまぁいいか。

プレイを始めてしばらくしてから交渉開始。でも、簡単に断られてしまった。店のルールがそうなっているから、とか言っている。もしかして別途お金が必要なのかな、と聞いてみても、そういう話じゃない、とつれない返事。やっぱり無理だよなぁ。

あまりしつこく言わなかったので逆に印象は良かったのかもしれない。女の子の雰囲気に少し安堵感が広がる。この雰囲気に乗じて、俺は一つ質問をすることにした。

「この胸ってさ、もしかして整形?」
「・・そうなの!」

驚いたような声をしてこちらを見る。別に怒っているわけでもなさそうだ。

「よくわかったね?」
「いや、前の彼女が胸を整形してたのもんで。懐かしい感触というか。。」

変な話だが感触でわかったのは事実だ。あの独特の感触は忘れようがない。

「この仕事のために整形したの?」
「違う違う、もともと胸が全然なくて嫌だったからしたの」
「いくらぐらいかかるもんなのこれって?」
「120万」
「高っ!」
「そんなことないわよ。本当に私胸が全然なかったんだから、それが今じゃこれよ」

と、Fカップはあろうかという胸をゆすってみせる。

「自分に自信ができたんだから、安いもんだわ」

そんなもんなのかねぇ、と思いながら、ふと年末以降連絡をとっていない上海小姐のことを思い出した。今頃どうしているんだろう。連絡とってみようかな。

でも、整形で思い出したなんて言ったらまた話がややこしくなるよな。



4-02b



03 : 08 : 03 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-03.戦果報告
2008 / 06 / 01 ( Sun )
4-03

翌日、S本部長がすぅっと俺の席に寄ってきて、

「どうでした昨日は?」
「はぁ、駄目でした。本当にできるもんなんですかあれって?」
「できますよそれは。まだまだ人間がわかってないねぇ君は」

人間性全てを否定するかような言い方である。たかがヘルス嬢を口説くだけのことが、えらい大きな話になってきた。ちょっと悔しくなって質問をしてみた。

「本部長はどうだったんですか?」

しかし、これは相手の思う壺だった。S本部長はきょきょろと辺りをうかがうと、前屈みに俺の耳に口を寄せてワルな口調で言うのだった。

「へっ、2発ヤってやった」

そうだった。このおじさんはこの種の話になると突然キャラが変わるんだった。
勝ち誇ったように去ってゆくその背中を見ながら俺は返す言葉もなかった。

時が過ぎて昼休み。喫煙ルームで食後の一服をしていると上司Mが入ってきた。俺の前にどっかと腰を下ろし、はちきれそうな腹を包んだズボンのポケットから窮屈そうにしてハイライトを取り出した。火をつけながら俺の方を見てにやにや笑い始める。

「聞いたぞ。駄目だったんだって?」

その笑い方が気にくわない。突っかかるように問いかける。

「でも、できるもんなんですかねぇ、全然信じられないですよ」
「簡単だろうあんなもの、お前よっぽど下手なんだな」

言いたい放題だよもう。俺は素直に敗北を認めて部下としてのサービスにいそしむことにした。

「で、Mさんはどうだったんですか?」
「そりゃお前、当然ヤッたに決まってるだろ」
「相手は綺麗な娘でした?」
「モデル並だったな、あの店じゃ一番じゃないかな」

元来が負けず嫌いなのだ。押さえておけばいいのに子供のように意地を張る。この人に耐えている俺は本当に人間ができているなと思う。

上司のパワハラに内なるナルシズムで対抗しながら俺は最後の質問を投げかけた。

「で、戦果はどうだったんですか?S本部長は2発やったなんて言ってましたけど」

するとMは、上を向いて煙をふぅっと勢い良く吐いた。そしてこちらを見て一言。

「俺は3発だったけどね」

やっぱりここでも張り合うのかよ。



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03 : 09 : 36 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-04.交流再開
2008 / 06 / 01 ( Sun )
4-04

さて、そんなこんなで新しい年の仕事が始まり、1週間ほど経った頃の夕方、一つのSMSが届いた。上海の小姐からのSMSだ。

「How are you? Do you still remember me? In your heart?」
(ねぇ、私のことまだ覚えてる?嫌いになってない?)

忘れるわけがないだろう、あんな面白いことがあったのに。
サノバビーチなんて言葉、多分俺は一生忘れられないと思う。
しかし、この場合は別の趣旨の話をしているのは明らかだ。俺は真面目に応対した。

「もちろん覚えてるよ。凄く怒ってたから連絡しにくかっただけだよ」
「怒ったのは好きだからよ。悪かったと思ってるわ。いろいろあって動揺してたの」

彼女は遺憾の意を表明してきた。まだ冬真っ盛りだが一足早く雪解けモードじゃないか。
SMSの言葉は続く。

「この関係を終わりにするのは悲しいわ。あなたはどうだった?」
「わからない。でも、君のメールを読んで暖かい気持ちになった」
「何となく気持ちが伝わったみたいね」

一見雪解け風だが、譲れない一線がある。少し話をかき回してみた。

「その気持ちってどんな気持ち?まさか、以前みたいな議論をまたするつもり?」
「私はただ沈黙のまま終わりにしたくないだけ。冷戦は長く続けるべきじゃないわ」
「冷戦を終わりにしてまた最初からやり直そうってわけだ」
「お互いに良い未来を考えましょうと言ってるの。それでもあなたが終わりにしたいなら、私はこれ以上何も言わないわ」

ややキレ気味の返答が帰ってきたところでまとめに入る。

「君次第だよ。もし君が変わらないなら俺たちはまた同じ議論を繰り返すことになる。でも議論は永遠に平行線なんだ」
「そんな迷路みたいなところにもう入りたくないわ」
「実際、この議論は難しすぎるんだ。俺たちは文化が違うし言葉の問題もある。将来ちゃんと話せる時が来ると思うけど、今は議論せずに現状を受け入れるしかない」
「もう議論は沢山だわ。一緒にいて、楽しくしたい」

本当かどうかはわからないが、今のところ、彼女からまたややこしい話が来ることはなさそうだ。俺は気持ちを切り替えて返信を打った。

「OK、じゃ、改めて仕切りなおしだ。最近、どうしてた?」



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03 : 11 : 03 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-05.虚々実々
2008 / 06 / 01 ( Sun )
4-05

年が明けてしばらくたった頃に、彼女から再びSMSが来た。少しまた話を蒸し返したりしてみたがもう不満を言うつもりもないようだった。それを確認した俺は再度仕切り直しのつもりで会話を始めた。

断続的ながら翌日の午前中まで続いたSMSの会話の最後に、彼女は「近いうちに会えるといいわね」と書いて寄越した。

比較的いい感じで終わった会話だが、その日以降、またSMSが途切れてしまった。1日待っても2日待っても彼女からのSMSはない。1週間経った頃、たまりかねて今度はこちらからSMSを送ってみた。

翌日の夕方になってようやく返事が来た。

「電話番号やアドレスが消えてしまって、連絡できなかったの」

その日はちょっと会話が続いたものの、翌日からもまたSMSはなし。10日くらいしてこちらからまたSMSを出してみても、今度は返事がなかった。

ありゃ?

時期はもう2月、中国では旧正月だ。喰いつき易い話題ということで、旧正月だけどどんな感じ?なんてメールを打ってみたのだが返事はない。一体どうしたわけだ。

家は知っているので上海出張のついでに寄ってみようかと思ったけれども、日本での年末年始が終わった後すぐに中国の旧正月が入ってしまうので、何となくまったりとしてしまう。誰かが休みだったりお客さんが休業に入るのでアポが入らなかったりで、仕事の話が詰まっていかないのだ。

そうこうするうちにもう2月下旬だ。2週間振りに思い立ってSMSを出してみたら、今度は10分も経たないうちに返事が来た。

「連絡来ないので忘れられちゃったのかと思ってた。携帯盗まれてこちらからは連絡できなかったの」
「ごめん、仕事が忙しかったんだ。それに携帯盗まれたなんて知らなかったし」

何故かこちらが謝る話になっている。携帯の番号がなくなってもYahoo!のアドレスからメールできるはずだと思うんだが、どうもそういう話にならない。彼女は昼の仕事も始めて忙しい日々を送っていた。毎日4時間も寝れない状態だそうだ。

「多分少しネガティブになってるかもしれないけど、もしあなたの方から連絡くれなかったら、私みたいな人間のこと気にもかけてないんだと思って諦めるしかなかったわ」

そういえば年末にケンカした時も、俺からメールをくれないことに不満を言ってた。忙しいのは事実だろうが、その一方で、俺の愛情を試しているのかもしれなかった。



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03 : 12 : 21 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-06.巡回思考
2008 / 06 / 01 ( Sun )
4-06

そんなある日、帰宅すると上海からメールが届いていた。彼女のPCアドレスからのYahooメールだ。そうそう、最初からこれで連絡とれば良かったじゃないか。

久しぶりのeメールは長文だった。

昼間の仕事に夜のKTV、そして学校での勉強も重なり、睡眠時間がほとんどない。今の生活の維持と将来の夢の2兎を追う彼女の生活はかなり厳しいものになっているようだった。メールの内容が愚痴っぽい。

“何でこんな話をまたしてるのか自分でもわからないの。でも、あなたからお金を貰っていた時、凄く悲しかったし自分が情けなかった。私は本当の友達として接して欲しかったし、あなたは事実、そうしてくれてた。あなたは馬鹿な女だと思ったかもしれないけど、あれは単なる愚痴よ。意味がないとか矛盾してるとか言われてもわからないわ。誰に何と言われようとも、私はこの道を歩いて行くしかないんだから。でも私はKTVで働く他の小姐よりはずっと幸せだと思うの”

なんだかまたややこしくなってきた。結局のところ、同じ話がまたくり返されようとしているのだろうか。

長いメールを読んでいると彼女の苦悩が伝わってくるし、それ自体は何とかしてやりたいと思う。実際のところ、好きな女に不自由をさせないといのはごく自然な感情だという気もする。でも、また去年のようなぐちゃぐちゃした話に戻るのも気が乗らない。

言葉を選びながら慎重にメールを書く。現状の環境は自分も悲しく思うし、同情もする。でも、金は出せない。理由は前に何度も話をしたけど、未だに伝わっていないと思う。そもそも文化や言葉の問題もあって話が通じないのかもしれない。

これ以上この点について話をするのは無駄なので、残念ながらお互い、今の現状を受け入れるしかない。彼女のメールに較べてなんて事務的で直裁的なメールなんだろうと思う。自分の表現力のなさを埋め合わせるように、前段では気持ちを率直に表現した。

翌朝、彼女から1行だけのメールが届いた。

「大丈夫、I’ll be more independent」

またちょっと気を悪くして、この話はこれで終わりかと思っていたら、その日の深夜、今度はSMSが送られてきた。

「何というか、昼間のメールは言外の意味はないの。書いた言葉そのまま。でも、いずれにしても顔を合わせて話をしたいわ」

メールやSMSの寄越し方から、彼女の心が揺れ動いているのを感じた。



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03 : 13 : 45 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-07.偉大な一歩
2008 / 06 / 01 ( Sun )
4-07

さて、上海戦線が行きつ戻りつの膠着状態に陥る一方で、問題は国内戦線である。初戦惨敗の憂き目を晒した俺に対しては各方面からの突き上げも厳しく、いよいよもって後には引けなくなってきていた。

そして翌日。日没を待って再び同じ店に参戦だ。
河岸をを替えた方がいいんじゃないかという気もするが、どうにも引けないのであと一度だけ。

今回出てきたのは少しぽっちゃり目の娘。写真ではラテン系な顔立ちだったが、まぁどう見ても日本人だ。話をしてみると関西出身らしい。時々混じる関西弁が良い感じでアクセントになっている。会話の時から比較的いい雰囲気で進む。これは期待できるかな。

きっちり仕事をして、2回目に女の子がそうなった頃合いを見計らって交渉開始。彼女はあっさりこう答えた。

「ゴム付けて貰っていいですか?」

おぉ!これはOKということですか?いやぁ、数打ちゃ当たるもんだねぇ。いよいよ来ましたよ。しかし追加料金はどうなるんだろう?後でとんでもない金額を言われてもどうしようもないぞ。改めて確認すると、

「2回目からはいらないけど、今日は8千円」

微妙にお買い得感のある価格設定は関西DNAのなせる業だろうか。

なんだか別のツッコミどころもあったけど、まずは本来のツッコミを無事達成。
この一歩は大きいぞ。ゼロと1とは実際のところ全然違うのだ。

***

翌週、S本部長と客先での打合せの後、近くの喫茶店で茶を呑む機会があった。仕事の話や雑談をひとしきり終えた後で、俺はこの誇らしい戦果を報告したのだった。

一瞬の間を置いてからS本部長はやにわに立ち上がり、たくましい右手を差し出した。思わず俺も立ち上がってその手を握り返す。強い握力でしっかり握手をしながら、彼はこう言った。

「おめでとう。君ならきっと変われると思っていたよ。そうやって自分を大きくしていけるところが君の良いところだ」

仕事ですら言われたことのない大賛辞に妙な高揚感を覚えながら、

「ありがとうございます。これもみな本部長のお陰です」

と言葉を返す俺。
喫茶店の中にいた他の客が不思議そうな目で俺たちのことを見ていた。

彼らには前半の話は聞こえていなかったはずだから、ただ、大仕事を達成した上司と部下の美しい絆として映ったに違いなかった。



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03 : 14 : 48 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-08.即时通讯
2008 / 06 / 01 ( Sun )
4-08

さて、一皮むけて大きくなった俺だが、彼女との間に少し進展があった。新しい通信手段を手に入れたのだ。Messengerソフトだ。

ポイントは、彼女が昼の仕事を始めたということ。普通の会社なので、彼女は会社のPCを与えられている。そこで、Messengerを使えば昼間ならいつでもおしゃべりできるという訳だ。それまでMessengerは使ったことがなかったが、彼女が強烈に薦めるので渋々会社のPCにインストールしてみた。

彼女からご招待メールが来る。hotmailで新しくアカウントを作ったみたいだ。彼女にSMSでいろいろ聞きながらソフトを調整し、ようやく開通。

「Hello! Are you there?」
「Yes! Finally we can connect each other.」

開通の挨拶を交わし合う。ソフトの設定が終われば後は普通に入力してゆくだけでいい。しかもSMSにくらべてもかなり反応が良いので会話がしやすそうだ。

なかなか快適なこのソフトは二人にとっての良いおもちゃになった。

毎日パソコンを立ち上げると自動的にメッセンジャーにログオンする設定になっていて、仕事を始めると向こうに分かってしまう。すると、しばらくして「How are you doing ?」なんて感じで絡んでくる。ちょっと忙しくなったりすると小休止になるけど、終わるとまたおしゃべり。バイトの分際でこんなにさぼってていいんだろうかと相手の事が心配になるくらいだ。

メールしかなった時代は返信に最低半日はかかったが、Messengerになるとほぼ即時に返信が返ってくる。二人で同時にしゃべって会話が混乱することすらある。これはかなり実際の会話に近い感じだ。相手の反応が早いので、文章も短く、口語調になる。詩的で難解な文章に難儀していた俺としては、直裁的な言い回しで会話ができるMessengerの方が数段使い勝手が良いのだった。

他愛もない会話だが毎日続けてくるとだんだんと情が移ってくる。会いたいと言いながらも心の底で相手の様子を伺うような、やや微妙な関係の中で膠着状態を続けていたのが、今や急速に雪解けが進んでいるような気がした。

ようやく旧正月ボケが終わった上海支社からミーティングの誘いが来た。
その出張に合わせて、ごく自然に彼女に会いに行く話になった。俺は最初ホテルを予約するつもりだったが、彼女に強く反対されて彼女の家に宿泊することになったのだった。



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即时通讯(jíshí tōngxùn)というのはメッセンジャーのこと。言われてみればなんとなくわかるよね。


03 : 16 : 43 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-09.周年感慨
2008 / 06 / 01 ( Sun )
4-09

上海支社と連絡をとって出張の日程を決める。メールの相手は相変わらずの台湾人だ。語尾に付くCheersに対し、飽きずに心の中で突っ込みを入れながら日程を徐々に週末に持ってゆく。

そしてうまく金曜日の会議でフィニッシュできるようにすると、次に帰りの飛行機をフリー扱いにして経理からチケットを貰い、自分で改めて日曜日の便の予約を入れる。面倒な作業も今ではすっかり手馴れたものだ。

気がつけばもう春だ。桜のつぼみも緩み始めて、天気予報では開花予想が話題になりつつある。コートの要らない日も増え、徐々に気持ちも開放的になる。上海でももう厳しい寒さを感じる日はほとんどなくなっているそうだ。出張はコートなしでも大丈夫かもしれない。

彼女との会話は毎日になった。電話はもうほとんどしなくなっていたが、代わりに昼間はほぼ毎日メッセンジャーでおしゃべりだ。そして夜になるとSMSが来る。日程が確定したとの連絡をすると、彼女がうれしそうに返信してきた。

「It’s our first anniversary, isn’t it?」(1周年よね、そうでしょ?)

考えてみたら、彼女に初めて会ったのはちょうど一年前の今頃なのだった。北京から上海に来た俺は、中国の協力会社の接待でKTVに行って彼女を指名した。持ち帰り不可だというのを知らずに持ち帰りのリクエストをして断られ、それを彼女に話して凄く憤慨されたのだった。

考えてみればこの一年、いろいろあったものだ。懐かしい思い出話などを織り交ぜながら深夜までSMSをやりとりする。最後に彼女が「じゃぁね。Have a good dream, kiss you」と書いてよこす。俺も返信を打ってPCを閉じるとベッドにもぐりこんだ。

こんなに彼女と深い関係になるとは思わなかった。1年経って、十分二人で盛り上がれるだけの思い出がある。いろんな意味で認識が変わったし、自分自身も変わったと思う。何故かあまり変わらないのは俺の中国語のレベルだけだ。

中国語はまだまだだけれども、中国人に関する理解は深くなった。彼女を知り、彼女と一緒に行動することで中国人だけに見せる様々な光景を目にすることができた。出張ベースでこういう体験ができたのは悪くなかったと思う。1年後もさらにそういうことを考えることになるのだろうか。

感慨と期待を胸に、俺は上海行きのJAL便に乗り込んだ。



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03 : 17 : 47 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-10.今年初訪
2008 / 06 / 01 ( Sun )
4-10

今年初の上海は、前に来たときよりも暖かく、やさしく迎えてくれた感じがした。
単純に冬から春になっただけなんだけれども、まぁいいじゃないか。

支社で仕事や打ち合わせが一通り終わったのが金曜の夕方。それからいよいよお楽しみだ。

支社の人間に挨拶をして会社を出る。今日帰国するのかと聞かれて、友達の家に泊まるから日曜日帰国だと答える。夜の帝王のYが抜けてすっかり淡白になったこの支社は、こんな面白いネタも完全スルーだ。何で俺がこっちに友達がいるってことを不思議に思わないんだろう。まったく何のつっこみもなく「Have a nice weekend」なんて言って俺のことを送り出す。

こんな奴等に商売任せといて大丈夫なのかな実際。

ま、それはそれとして、会社のビルの前からタクシーを拾って行き先を告げる。彼女の家の住所も大分言いなれてきたので一発で通じる。まぁ何にしろ語学は慣れだよな。日が翳り初めた街中をタクシーが走り、そして見慣れたマンションが見えてきた。

「停車、停車」と言ってタクシーをとめる。そして「現金(シンチン)」。

「我給発票」「好的」という会話を経てレシートを貰う。相変わらずプリントアウトが長いのでその間に外に出て、助手席の床に置いてあるキャスターバッグを取り出す。そしておつりとレシートを助手席から手を伸ばして受け取り「謝謝」。「再見」と言う運転手に笑顔で同じ言葉を返してマンションのホールに向かう。

エレベータのボタンを押して扉が開くまでの間、壁にかけられた液晶画面を眺める。昔ここでも話をしたけれども、中国のビルはこういう液晶画面があって、CMを流しているのが一般的だ。エレベータを待ってるときというのは結構暇なのでついつい見入ってしまう。

エレベータの扉が開き、住人らしき人と一緒に乗り込む。スーツ姿は俺だけなのでなんだかちょっと浮いている感じだ。でも、他人は他人、俺は俺。最初の頃だったら挙動不振になっていたが、今では慣れたものだ。

エレベータを降りて廊下を歩く、突き当りが彼女の部屋だ。呼び鈴を押すが回線が壊れたらしく音が出る気配がない。しょうがないので扉をノックする。最初は軽く、次にやや力を入れて拳で数回叩く、鍵を開ける音がして派手な軋み音とともに木製の白い扉が開いた。中には懐かしい顔の彼女が待っていた。



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